福岡高等裁判所 昭和52年(く)76号 決定 1977年12月27日
少年 T・O(昭三六・二・二八生)
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の趣旨は、少年が差出した抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し次のとおり判断する。
所論は、要するに、本件非行が単なる酒気帯び運転、定員外乗車、免許条件違反、速度超過等の道路交通法違反罪に過ぎないこと、少年が現在深く反省していることなどに照らすと、少年に対し、未だ少年阮送致の処分は重過ぎるし、たとえ少年院送致の処分をするべきであるとしても交通短期教育課程で処遇すべきであるのに、原決定が、医療少年院送致決定をしたのは処分の著しい不当がある旨の趣意に出たものと解される。
そこで、本件少年保護事件記録及び少年調査記録を調査検討すると、原決定が、その「処遇」の項で説示するところと同一の理由により、少年を医療少年院に収容することが、少年の健全育成を図るうえで相当であるものと認められる。即ち、少年は、福岡家庭裁判所において、各窃盗非行により昭和五〇年一二月一日及び昭和五二年六月二七日の二回にわたり各不処分決定(保護的措置)、同年一〇月二〇日窃盗、道路交通法違反非行により保護観察処分決定を受けたにもかかわらず、早くも同年一一月三日本件各非行を敢行したものであつて、本件各非行は道路交通法違反であるとは言つても、その回数、動機、態様その他の内容自体からして極めて悪質なものであるばかりでなく、少年の資質、非行性と根深く結びついていて決してこれを軽視することができないし、殊に少年の成育過程及び環境などによつて形成された少年の性格には、著しく情緒不安定な状態、独善的、他罰的、かつ反抗的な思考行動傾向、精神病質との判定を受けた程の偏倚等が見受けられる上、その家庭には葛藤があつて、到底少年の監護を期待できるような状況にないことなどからすると、この際、少年の現在における心境を考慮に入れても、少年を医療少年院に収容して医療的措置及び矯正教育を施すのが相当であり、原決定の処分を不当と認めるべき事由は存しない。
よつて、本件抗告は理由がないので、これを棄却することとし、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 井野三郎 裁判官 鈴木秀夫 江口寛志)
参考一 抗告申立書
僕は少年院で自分のやつた事を深く考えています。
それはただの交通違反で、すぴいど違反、二人乗り、じようけん違反、いんしゆう運転とほかにすこしありますが、少年院とはすこしつみがおもすぎると思います。
自分はいままで何回も悪い事をしてきたので少年阮にいく事はもう一度考えなおして、審判をして下さい。
もし少年院にいくとしたら交通短期にして下さい。それでよいとも思います。
参考二 原審決定(福岡家 昭五二(少))一四六二〇号 昭五二・一一・二一決定)
主文
少年を医療少年院に送致する。
当裁判所が当庁昭和五二年少第一三八七五号、一二六六七号、二三九七号、二七二五号事件につき昭和五二年一〇月二〇日にした「少年を福岡保護観察所の保護観察に付する」旨の決定を取消す。
理由
1 非行事実及び適条
本件記録中の少年に関する司法警察員作成の昭和五二年一一月四日付少年事件送致書記載の犯罪事実及び罰条と同一であるから、これを引用する。
2 処遇
本件は前件処分の二週間後の同種非行である。免許をもつているのだから道交法違反をしても罰金さえ支払えばよいという独自の見解にとらわれて違反をくりかえし、警察官の取り扱いに対し自分が不公平に扱われているとして不平不満を示すだけで内省はみられない。したがつて現段階では保護観察による指導の効果は全く期待できないうえ、本件記録中の少年調査票生活史欄記載のとおりの生育過程で精神病質との判定を受けるほどの偏つた性格を形成し、現在再度の鑑別所収容で極めて不安定な心情にあるので、精神安定剤の投与などの医学的処置を行い、長期にわたる心理療法を加えることによつて自己洞察を深めさせ、社会に適応できるよう指導していくことが必要である。
よつて少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項により少年を医療少年院に送致し、同法二七条二項によりこれと競合する前の保護処分を取り消すこととして、主文のとおり決定する。
なお同規則三八条二項により、一般少年院への定着が見極められた時点で中等少年院へ移送されるよう処遇勧告する。
一 犯罪事実
(一) 被疑者は、呼気一リットルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有しながら、昭和五二年一一月三日午前〇時二〇分ごろ福岡市西区○○○○交差点付近道路上において原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転したものである。
(二) 被疑者は、法定の除外事由がないのに前記日時、場所において乗車定員一名のところ一名こえて乗車させて原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転したものである。
(三) 被疑者は、前記、日時、場所において公安委員会から眼鏡を使用して運転すべき旨の条件を付されているのに眼鏡を使用しないで原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転したものである。
(四) 被疑者は、昭和五二年一一月三日午前〇時二二分ごろ、福岡市西区○×××番地先道路において原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転右折するに際し、右折の合図をしなかつたものである。
(五) 被疑者は、前記、日時、場所において福岡県公安委員会が道路標識によつて一時停止すべき場所と指定した前記場所において原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転して交差点に入る際に一時停止をしなかつたものである。
(六) 被疑者は昭和五二年一一月三日午前〇時二三分ごろ福岡県公安委員会が道路標識によつて一時停止すべき場所と指定した福岡市西区○○○○○ ○○酒店前交差点において原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転して交差点に入る際に一時停止をしなかつたものである。
(七) 被疑者は昭和五二年一一月三日午前〇時二四分ごろ福岡県公安委員会が道路標識によつて一時停止すべき場所と指定した福岡市西区○○○×××番地○○商店前において原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転して交差点に入る際に一時停止をしなかつたものである。
(八) 被疑者は前記、日時、場所において原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転左折するに際し、左折の合図をしなかつたものである。
(九) 被疑者は、法定の除外事由がないのに昭和五二年一一月三日午前〇時二六分ごろ、福岡県公安委員会が道路標識等によつて追越しのため右側部分にはみ出して通行することを禁止した福岡市西区○○○×××の×番地福岡市農協○○支所前道路において原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転して約二〇〇メートルの間道路の右側部分を通行したものである。
(一〇) 被疑者は、昭和五二年一一月三日午前〇時二七分ごろ福岡市西区○○ ○○バス○○団地入口バス停前において法定の最高速度三〇キロメートルをこえる八一キロメートル毎時の速度で原動機付自転車(福岡市○○××××号)を運転したものである。